土岐市に誕生したうつわを丸ごと楽しむ施設


日本有数のやきものの産地、岐阜県土岐市。その生産量は日本一で、国内の陶磁器全体の半数にも上る(※岐阜県産業経済振興センター調べ)。土岐市を含む岐阜県南部、東濃地方でつくられるうつわは「美濃焼」と呼ばれ、主に一般家庭の食卓用や、ホテルレストラン向けとして親しまれている。

美濃焼の歴史は古く、1,300年以上。山々に囲まれたのどかな町並みには、今もろくろを使って手作業でうつわづくりに勤しむ陶芸家の小さな工房から、大量生産に対応する陶磁器メーカーの工場まで、いくつもの窯元が存在する。
そんな日本を代表するやきもののまちに、2023年1月にオープンした、うつわの魅力をさまざまな角度から体験できる施設〈KOYO BASE〉を訪れた。

 

うつわが生まれる瞬間に触れる

大通りから外れた急勾配の細い路地を少し上がったところに、その建物は現れる。三角屋根が連なる工場と、カフェダイニング、ショップ、ワークショップスペースが一体となった複合施設〈KOYO BASE〉だ。店舗部分も、もともとは3階建ての倉庫だった空間をリノベーションして利用している。
スタッフの吉永ひな野さんの案内で、まずはうつわの製造現場を見学させていただいた。〈KOYO BASE〉を運営する光洋陶器株式会社はホテルやレストラン向けのうつわのメーカーとして、東京オリンピックが開催された1964年に創業。以来、高品質な製品を国内外の食のプロフェッショナルに届けてきた。コロナ禍の影響もあり、近年では家庭用のテーブルウェアにも力を入れていて、生産するうつわの9割以上がオリジナル製品だ。
創業当初は海外輸出用のテーブルウェアを中心に製造していた。エントランスには当時の製品が展示されている。
創業当初は海外輸出用のテーブルウェアを中心に製造していた。エントランスには当時の製品が展示されている。
工場は体育館のように広く、ここから毎日1万枚以上のうつわが製造されているという。陶磁器生産は材料の土を水分が均一になるよう練り合わせる「土練り」や、うつわの形をつくる「成形」、高温の窯で焼く「素焼き・本焼き」など、工程ごとの分業制で成り立っていることが多いが、光洋陶器では商品の企画から出荷まで全ての工程を自社で担っているのが大きな特徴だ。
そのため、工場見学では土がきれいなうつわになるまでの様子を、間の工程が抜けることなく全て順番に見ることができる。
いくつもの大きな機械がテンポよく稼働するなかでも、要所要所では職人が自らの手で作業を行なっている。皿の縁を整えたり、こだわりのかたちを成形する繊細な作業は、どうしても機械化が難しい。この最新鋭の機械と職人技の融合もまた、工場見学の見どころだ。
「工場の規模としては大きいですが、決して大量生産を目指すのではなく、多品種小ロットで、高品質なものをできるだけ手に届きやすい価格で届けることを大切にしています。効率化できる部分は機械に任せて、人の手にしかできない部分は職人さんが担っています」と吉永さん。

機械を導入することで、人が入れ変わっても一定のクオリティを保つことができるのだ。中には、職人が手作業をしているような動きを再現する最新鋭の機械もあり、常にアップデートし続ける、ものづくりに対しての真摯な姿勢を垣間見ることができた。

地元食材を使った料理を、こだわりのうつわで味わう

昼時、平日にも関わらず、カフェダイニングは若い女性客や地域の方を中心に賑わっていた。工場の名残で天井が高く開放的で、大きな窓から差し込む光が気持ち良い。ランチメニューは「お肉とお野菜のセット」「お魚とお野菜のセット」「農園野菜のスパイスカレー」「お子様プレート」の4種類。いずれも地元産の食材がふんだんに使われているのが嬉しい。

手で持ったときの収まり具合や、お盆に並んだときの色合い、大きさのバランス…。こうして食卓で使われてこそ、うつわはその魅力を発揮することがよく感じられる。
料理は季節の野菜がたっぷりで、地元の郷土料理に着想を得たメニューもあり、遥々訪れる甲斐がある。

 

ワークショップで陶器の絵付けを体験

ワークショップスペースで、陶器に絵付け体験をさせていただいた。体験は絵柄が印刷されたシートを使用して絵柄を貼るパターンと、筆を使って自分で絵を描くパターンの2種類。今回は、より手軽に体験できる前者を選んだ。まずはプレートやマグカップなど、さまざまな種類のうつわの中から好きなアイテムを決め、絵付けをする絵柄を選んでいく。
シートを水で濡らすと、素焼きの状態のうつわに絵柄が転写されて、これを窯で焼き上げることによってプリントされる仕組みだ。日付や名前を入れることで、オリジナルのうつわが完成する。見学の記念や、贈り物にもぴったりだ。
ワークショップは予約制(11:00〜/14:30〜)で1回1,500円(送料別)。工場見学とセットで予約するのがおすすめ。
ワークショップは予約制(11:00〜/14:30〜)で1回1,500円(送料別)。工場見学とセットで予約するのがおすすめ。
ワークショップで絵付けをしたうつわは、工場の窯で「本焼き」の工程を経て約1ヶ月後に自宅に届く。実際に自分で手を動かしてものづくりを体験することで、工場見学で見た職人の技術がいかに繊細であるかを実感した。

 

やきものの産地でうつわを買う


工場見学、カフェダイニングでの食事、ワークショップと、さまざまな角度からうつわの魅力に触れた後には、ショップで商品に手を伸ばさずにはいられない。
通常、商品はメーカーから商社を通して全国の雑貨店や飲食店に卸されるため、作り手には自分たちの商品がどこでどんな人に使われているのかが見えない。
〈KOYO BASE〉がオープンして直営販売を始めたことにより、使い手の顔が見えるようになり、お客さんの反応を直に感じられることは工場で働く方々にとって、とても大きく、嬉しい変化だという。
ヴィンテージのような雰囲気が漂うシリーズ、北欧やイギリスなど各国の文化をルーツとしたシリーズ、和食器など、ブランドごとに雰囲気ががらっと異なり、どんな食卓にも合ううつわと出会うことができる。
2017年から構想段階を含めおよそ5年間の準備期間を経て、ようやくオープンを迎えた〈KOYO BASE〉。最後に、立ち上げから携わってきた吉永さんに今の想いを伺った。

「“CLAY to Table 土から食卓までを。”というのが〈KOYO BASE〉のコンセプトです。工場見学で土がうつわのかたちになっていく過程を見て、そのうつわを使ってカフェでお食事をしていただくというように、どこか一部分だけではなく、まさに土から食卓までを楽しんでいただけたら嬉しいですね」。

 



Text: Eriko Sugita
Photo: Makoto Kazakoshi




 

いつもと違う岐阜県観光には、土岐市の〈KOYO BASE〉がおすすめ。


KOYO BASE


所在地岐阜県土岐市泉町久尻1496-5
アクセスJR土岐市駅から徒歩20分、多治見ICから車で約10分(駐車場 43台)
電話番号0572-55-5501
URLhttps://koyobase.com/
営業時間11:00〜17:00(カフェのLO 16:30)
休業日火曜、水曜(祝日の場合は営業)

※記事中の商品・サービスに関する情報などは、記事掲載当時のものになります。詳しくは店舗・施設までお問い合わせください。