雪がまだ少ないこと意味する「小雪」。寒さはそれほど厳しくありませんが、日は追うごとに短くなり、空からは冬の便りである「風花」が届き始めます。徐々にコートが手放せなくなりますが、一方でおだやかな陽気の小春日和に恵まれることも。この時期、全国の芝居小屋では顔見世興行が行われます。京都で大根焚きが行われるのもこの季節。本格的な冬を前に瀬戸焼の作陶にチャレンジして、温かいお鍋もいいですね。
※観光施設などの営業状況、およびイベントなどの開催状況については、お客様自身で事前にお問い合わせをお願いします。
東京・京都 × 伝統
歌舞伎の華、顔見世興行。
江戸時代、京都や江戸で庶民の娯楽として大流行した歌舞伎。現在でも多くの人に親しまれています。中でも人気なのがこの時期に行われる顔見世興行。歌舞伎界の最高峰と言われる役者がそろって競演する、最も重要な年中行事のひとつです。
江戸時代、11月から翌年10月までの1年間が、役者の雇用契約の期間でした。役者が交代して、新しい一座の顔ぶれをお披露目する顔見世は、現在でも11月から12月初旬にかけて、全国の芝居小屋で行われます。
顔見世興行で最も歴史が古いのが京都の南座。現代でも興行の際は、歌舞伎役者の名前を勘亭流で書いた看板(まねき)を掲げる「まねき上げ」が実施されます。大きくて力強い文字が劇場の正面に掲げられ、冬の京都を華やかに飾ります。
東京・銀座にある歌舞伎座では、顔見世興行に合わせて、由緒ある櫓(やぐら)が掲げられます。江戸時代、櫓は幕府公認の芝居小屋である印となっていました。現在も特別なときにだけ掲げられる櫓は、顔見世興行に欠かせない象徴です。歌舞伎座を訪れたときは、ぜひ合わせて歌舞伎稲荷神社にお参りしてみましょう。こちらは劇場関係者もお参りするといわれる小さなパワースポット。御朱印も受けられますよ。
舞台の進行に合わせて、絶妙なタイミングであらすじや時代背景などを解説してくれる、イヤホンガイドの貸出があるなど、実は初心者にも優しい歌舞伎。まだ歌舞伎を観たことがないという方も、ぜひこの冬、日本の伝統芸能に触れてみてはいかがでしょうか。
愛知 × 陶磁器
世界に誇る瀬戸焼の技術。
世界屈指の焼き物の産地である、愛知県瀬戸市。この地で平安時代から約千年もの間、瀬戸焼が作り続けられてきました。今や焼き物の代名詞といえる「せともの」の語源です。いかに暮らしの中に、瀬戸の焼き物が溶け込んでいるかがうかがえます。
鎌倉時代になると、中国の陶磁器をお手本に、神仏器などの高級な陶器を焼くようになります。これらは「古瀬戸」と呼ばれます。
その後、茶の湯が流行し、武士階級が使う天目茶碗が大量に生産されました。江戸時代には尾張藩が、瀬戸の窯屋を保護。明治時代になると、海外にも輸出されるようになり、瀬戸ブランドが世界で知られるように。現在はファインセラミックスの分野にも進出と、瀬戸焼は今なお進化を続けています。
瀬戸焼は、透明感がある白い素地に青く発色する呉須と呼ばれる絵具で絵付した「瀬戸染付」が特徴です。現在、瀬戸には数百件の窯元があり、多くの陶芸家たちも制作活動を行っています。また、陶芸や絵付けを体験できる窯元や工房もたくさんあります。
瀬戸は焼き物以外にも名所の多い町。特にこの時期おすすめなのが、岩屋堂公園や、国の文化財に指定されている定光寺です。定光寺の本堂付近や境内各所では鮮やかな紅葉が見られ、荘厳な建物とのコントラストが見事です。千年の歴史を持つ「六古窯」のひとつとして、日本遺産にも認定された瀬戸市。美しい景色とともに、そのストーリーをたどってみませんか。
京都 × 食
大根焚きで健康を祈る。
京都の冬を告げる風物詩、大根(だいこ)焚き。昔から大根は心身の毒を取り除くといわれ、神様へのお供え物とされてきました。そんな大根焚きの先駆けとなったのが、千本釈迦堂です。12月8日は、お釈迦様が菩提樹の下で悟りを開いた日。その記念日に丸い大根を切って供え、梵字を書いて厄除けをしたのが大根焚きの始まりとされています。12月7日、8日は無病息災を祈願した大根が、油揚げと一緒に大釜で炊かれて、カラメルで梵字を書かれた大根が参拝者に授与されます。
了徳寺では、親鸞聖人を村人が大根焚きでもてなしたのが由来。通称「大根焚寺」ともいわれ親しまれています。12月9日と10日に、約三千本の篠大根と油揚げがふるまわれます。
冬の始まりならではの景色を楽しめるのも、大根焚きの醍醐味。たとえば毎年12月の第1日曜日に大根焚きが行われる妙満寺では、一緒に枯山水「雪の庭」の景色も楽しめます。また、千本釈迦堂では夜間に境内のライトアップも予定され、時期が合えば本堂の美しいカエデの紅葉を見られることも。
お寺ごとに特色がある大根焚き。来年も健康に過ごせることを願って、足を運んでみてはいかがでしょうか。