わずかに残っていた冬の気配がすっかり過ぎ去ると、いよいよ春本番。空や風、花や鳥。あらゆるものが清らかで、いきいきと在る様から二十四節気ではこの時期を「清明」と呼んでいます。
桜の後を引き継ぐように、ツツジやアネモネが見頃を迎え爽やかな風に誘われて、おもわず外で過ごしたくなる陽気。歩く速度を心地よく感じながら散歩するように旅をしましょう。


※観光施設などの営業状況、およびイベントなどの開催状況については、お客様自身で事前にお問い合わせをお願いします。

神代植物公園のツツジ イメージ
神代植物公園のツツジ イメージ

東京 × 花
色とりどりのツツジ散歩。


日本各地の山野に自生するツツジは、古くは万葉集にその姿を詠まれたり、江戸時代には園芸品種として人気を博すなど、日本人に身近な花として永く親しまれてきました。4月になると、躑躅色(つつじいろ)と呼ばれる鮮やかな赤紫色をはじめ、白、赤、黄など、色とりどりの花をあちこちで咲かせます。

東京・青梅市の塩船観音寺は、そんなツツジの名所のひとつ。室町時代後期に建てられた本堂や仁王門が国の重要文化財に指定されており「花と歴史の寺」とも呼ばれています。観音像が見下ろす広いすり鉢状の斜面に植えられたツツジは、約15種・約17,000株。毎年4月中旬から5月上旬まで様々な品種が競うように咲き誇り、途切れることなく花を楽しむことができます。

都心のビル群のごく近くでありながら、のんびりツツジ観賞ができるのが新宿御苑です。広大な園内には約3,000株のツツジが植えられ、4月中旬には遅咲きの桜とツツジの共演を楽しむことができます。また、都心から少し離れた穴場スポットなのが神代植物公園の「つつじ園」です。約280種・約12,000株のツツジが満開を迎える頃には、葉が見えなくなるほどの花で埋め尽くされます。

春の心地よい日差しの中、色とりどりの華やかなツツジを探しにでかければ、この時期だけの一味違った東京散歩の始まりです。


お好み焼きのテイクアウト イメージ
お好み焼きのテイクアウト イメージ

大阪 × 食
粉もんを青空の下で。


空は澄み、草花が芽吹くようになると、各地でお花見のシーズンを迎えます。暖かな日差しを感じながら、屋外で頬張るお弁当やちょっとした軽食の味は格別、ですよね。旅先でしか味わえない「地元の味」がお供となれば旅人冥利に尽きるというものです。

美味しいものが数知れず存在する食い倒れの街、大阪。大阪城公園でのお花見や心地よい屋外でさっといただく軽食には、「キャベツ焼き」と呼ばれる片手で持って食べられる小さなお好み焼きやたこ焼き、豚まんといった熱々美味で大阪らしさあふれる「粉もん」をテイクアウトするのがおすすめです。

小麦粉をつかったお料理ならば、お好み焼きはもちろんのこと、うどんもパスタも大阪の人々は「粉もん」と呼び愛してやみません。全国的にもなぜ大阪で「粉もん」が人気なのか?これには諸説あるようです。たとえば大阪は商人の街だから、忙しい仕事の合間、さっと食べられて腹持ちの良い「粉もん」が好まれたのだ、とする説。一方、戦後の物資不足の際に、米の代替として小麦粉料理が発展したのだ、という説も。もっと風流な一説は大阪出身の茶人・千利休を祖とするものです。

大阪城を築いた豊臣秀吉に仕えていた利休が、お茶の席で出した茶菓子の中に、小麦粉を水で溶いて焼き、味噌などを塗った「ふのやき(麩の焼き)」というものがあったということです。どこかお好み焼きの元祖のようなこのお菓子。当時の茶会の記録『利休百会記』に68回も登場し、利休にも客人にもたいへんに好まれたことが伺えます。これを起源に大阪人は粉もんを嗜むようになったのだ、とする説は真偽のほどはともかく、なかなか粋な考え方ですね。

大阪の青空の下、お気に入りの粉もんとお茶を手に屋外でひと休み。かつて同じように、粉もんの茶菓子を楽しんだ利休の茶会に思いを馳せてはいかがでしょうか。


馬龍宿の街並み(4月頃) イメージ
馬龍宿の街並み(4月頃) イメージ

岐阜 × 自然
江戸情緒の峠越え。


江戸時代の五街道のひとつ「中山道」は東京・日本橋と京都・三条大橋を結んだもので、約540kmの街道には69ヶ所の宿場が置かれていました。なかでも岐阜県中津川市の「馬籠宿(まごめじゅく)」と長野県木曽郡の「妻籠宿(つまごじゅく)」は、江戸時代の風情漂う町並みがいまに残る、人気の高い宿場町です。馬籠宿と妻籠宿の間は車で行けば全長約9km、約20分の距離ですが、旧中山道の峠道(旧中山道信濃路自然遊歩道)を約2時間半から3時間かけて歩くこともできます。

旅は馬籠宿から始めましょう。石畳の敷かれた急勾配の坂道には約600mにわたり趣ある古い町並みが続きます。馬籠宿本陣(文豪・島崎藤村の生家)跡に建てられた藤村記念館や永昌寺など、島崎藤村ゆかりの地も多くあります。また、街道のあちこちで売られている焼きたての煎餅や五平餅など食べ歩きも楽しみのひとつです。歴史を感じる宿場町の外に出ると、いよいよ険しい峠道が待ち構えています。木々が広がる山の中を歩き、標高790mの馬籠峠を越えて妻籠宿を目指しましょう。

道中、「馬籠宿展望台」では恵那山と田園風景の絶景が楽しめ、江戸時代の面影を色濃く残す家々が軒を連ねる「峠の集落」、宮本武蔵が修業したと言われる「男滝・女滝(おたき・めたき)」など、見どころもたくさんあります。ゴールとなる妻籠宿は昭和51年(1976年)に全国で初めて古い町並みを保存した宿場町。江戸時代末期から明治にかけて再建された建物がいまも残されています。木漏れ日に癒されながら歩む歴史街道。妻籠宿に着く頃には、すっかり江戸時代の旅人気分になっているかもしれません。

妻籠宿の街並み(4月頃) イメージ
妻籠宿の街並み(4月頃) イメージ